佐藤琢磨がインディ500で2度目の優勝、偉業達成 痛恨の過去、ファンがやきもきする理由
アメリカのインディカー・シリーズに出場している佐藤琢磨がインディ500で2度目の優勝という大偉業を達成した。
”大偉業”と書いたけれども、モータースポーツのファンにはこう書いても、大げさではないことはわかってもらえると思う。
一方で一般のスポーツファンには、ピンとこないかもしれない。
それほど、メディアで騒がれていないということで、モータースポーツのファンはやきもきしているのだ。
インディ500(インディアナポリス500)
インディ500は、F1モナコGP、ル・マン24時間レースと並ぶ世界3大レースの一つであり、レーサーにとってはものすごく価値が高いレースである。決勝戦には40万人が観戦に訪れるまさに一大イベントだ。
F1のフェルナンド・アロンソは3大レースでの優勝という偉業をはたすため、3度出場しているが、まだインディ500だけは達成できていない。
最高速度は380km/h、周回平均速度は予選で362km/h、決勝でも354km/hを超える。
佐藤琢磨は2017年に続き、2020年にも優勝をはたした。日本人で優勝したのは、もちろん佐藤琢磨だけだ。付け加えるとアジア人でも唯一優勝しているのが琢磨である。
現役で複数回の勝利記録を持つのは、1人だけ(エリオ・カストロネベス/ブラジル/3回)。現在もそうそうたる顔ぶれが参加しているインディカー・シリーズだが、まさに2度目の偉業は、歴史に名を刻んだと言っても大げさではないだろう。
佐藤琢磨
物腰はやわらかだが、正真正銘のファイターだ。
命がけのインディカーはクラッシュなどの事故も頻繁に起こる。
実際に亡くなってしまうレーサーも残念ながらいる。
時に300キロを超える速度で壁に激突するわけだから、命がけであり、見ているだけでも肝を冷やすこともある。しかも、ぎりぎりコーナーを攻めるから、車の挙動が定まらず、事故を起こすこともある。
以前、予選で凄まじい事故を起こした後でも、佐藤琢磨はチームのメカニックたちを信頼して、アクセル全開で攻める場面がドキュメンタリーであった。それが、佐藤琢磨だ。
そして、そんな佐藤琢磨の勇気に、心意気に、やっぱりアメリカのスタッフたちも心が動かされるのだと感じた。
ドラマティックなエピソード
インディ500であっても、佐藤琢磨は歴代でも、とびきりドラマティックなエピソードを形作ったレーサーの1人だ。
ファンの間で強烈に残っているのは2012年のことだ。佐藤琢磨は最終周を2位で迎えた。インディ500で2位でも快挙と言えるだろう。
しかし、迷わず佐藤琢磨はアクセルを踏んだ。
1位を走るダリオ・フランキッティにアタックをしかけたが結果は…スピン~クラッシュという悪夢が待っていた。
この佐藤琢磨のチャレンジは賛否両論あった。
当然、最も忸怩たる思いをしたのは佐藤琢磨、本人であろう。
「タクマ・サトーの素晴らしく、愚かで、勇敢で、無責任なチャレンジ」
「もし彼のアタックが成功しフランキッティを下していたら、インディ500の歴史に残る伝説のヒーローになっていただろう。しかし、フランキッティはサトーの追い抜きを許さず、ここ数年で最もドラマチックな幕切れとなったインディ500を制した」
「タクマ・サトーはインディ500で勝つために早く動き過ぎたのか? おそらく否だ。彼はチャンスを見つけ、それに向かった。しかしそれは成功しなかったのだ」
「(チームメイトだったカナーンは)待つべきだった。ダリオがそう簡単にさせてくれるとは思わない。まるで若手ドライバーのようなミステイクだった」
引用:佐藤琢磨の最終周チャレンジに外紙の評価は?
そもそも、レースで優勝を争う車をしたてるのはとても難しく、幸運な機会で、常にそうであるとは限らない。
この佐藤琢磨のしかけは無謀と批判もされることもあっただろうが、そのチャレンジスピリッツを当時のチーム代表のボビー・レイホールは称え、レース後に佐藤琢磨を抱きしめたものだ。
「まったく琢磨を非難する気なんてないよ。チャンスを見つけたら、掴み取りにいくのは当然だ。特に、それがインディ500の残り1周なら当たり前だ」
「琢磨と、チームのみんなが成し遂げた仕事に誇りをもっている。彼らがより素晴らしい仕事をしたから、気の毒だったよ」
このような辛酸を舐めた佐藤琢磨だったが、1度ならず2度、優勝という偉業をはたした。
2度優勝した今回の偉業はどれほどのものなんだろうか。
ネットでは、テニスの錦織圭が2度ウィンブルドンで優勝するぐらいの快挙という表現があり、なるほどと思った。
正直、他のスポーツとは比べるのは難しいことではあるけれど、佐藤琢磨の歩みを見てきたファンならば、言葉では言い表せない敬意、称賛する気持ちが生まれるのは間違いないだろう。
佐藤琢磨はやっぱり人柄やその姿勢が優れていて、海外のスタッフも引き付け、力を引き出すのではないかと感じる。
実力があっても、スタッフと密な信頼関係を築けなければ、モータースポーツで優勝するのは至難だ。
車の整備のためにメカニックが徹夜で作業なんていうこともある世界だから、スタッフがやる気を出さなければ、強い車は作れないのだ。
アメリカの屈指の人気のモータースポーツで、このように優勝を重ねることができた佐藤琢磨は本当に素晴らしいと思う。
佐藤琢磨に感謝をこめて「おめでとう」と言いたい!